【宮守あれこれ】遠野で静かに陶芸を続ける「薬師窯」~粘土からつくる器への想い~

遠野景色

岩手遠野の薬師岳のふもとで、こだわりの器をつくり続ける薬師窯。
10mもある穴窯を使い、冬には窯焚きを行なっています。

今回は、地元・岩手遠野を離れ東京や九州で様々な経験を積み、今では地元の方に愛される陶芸家、菊池和好さんに取材しました。
つくり手の想いが詰まった器のお話を聞けてとても感動しましたし、この器を使って食事をしたいと心から感じたお話でした。
陶芸の奥深さと菊池さんの想いをぜひご覧ください。

 

 

陶芸家菊池和好さん

 

 

 

プロフィール

陶芸家 菊池和好さん
岩手県遠野市綾織町出身
20代で福岡の窯元に弟子入り。その後5年間の修行を終え、地元遠野に戻る。
現在は遠野市宮守町に「薬師窯」を築き、陶芸活動や展示会を行なっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分探しの旅へ

高校を卒業後、東京に就職し、働きながら大学受験を考えていた菊池さん。しかし東京に身を置く中で、大学に行く意味を考え直し、大学受験は白紙に戻そうと決めました。
東京で働きつつ休暇をとり、自分探しの旅を始めます。まずは修学旅行で思い出深かった京都へと出発しました。

京都を旅する道中、数々の手しごとからなる伝統工芸品を見るなかで、菊池さんも手に職をつけたいという気持ちが芽生えました。そして、旅先で出会った人たちに「失敗を恐れず飛び込んでやってみれば?」と背中を押され、自分なりの道へ飛び込もうという想いが強くなっていった菊池さん。その後、東京へ戻り、日本にどんな手しごとがあるのかを学ぶうちに、陶芸に関しての資料が多く残ることに気が付きました。そこから、陶芸の文化が盛んな四国や九州へと旅立ちました。

△古民家のご自宅でゆっくりとお話を聞かせていただきました

 

窯元との出会い

窯元を転々とするなか、福岡県東南部に位置する小石原の親切な窯元の方々と出会い人生は一変。陶芸をやりたいと話をしたところ、後に師匠となる方から「弟子にならないか?」と話をもらいました。ただ、その窯元は他の窯元とは異なり、5年の修行が条件でした。私だったら、え~長いなぁ‥と思ってしまいますが…
菊池さんはひたすら修行し手に職が付くならラッキーだと考え、その窯元の弟子になることを決意。師匠との面談で、「なにかできることはあるのか?」と聞かれた際、
「不器用ですが人一倍努力できます!」と答え気に入られたとのこと。

 

修行に励む日々

その後、当時働いていた東京の会社を退職し、福岡の窯元で、ほとんど休日を取らず5年間の修行を積みました。当初は母親や友人に反対されたという菊池さんですが、5年経ったら帰るというご両親との約束を果たし、窯を作る材料と共に岩手遠野に戻りました。

 

自分らしい器づくり

遠野市綾織町に窯を構え約10年ほど陶芸活動を行っていましたが、刺激的な芸術家と出会うなかで自身のものづくりへ対する考え方が少しずつ変化していったという菊池さん。陶芸家として成長し、本当のものづくりをするためにも今居る遠野の地を知り、そこで自分らしい器をつくりたいと思ったそうです。

 

古民家と共に生きる

△修復する前の薬師窯

 

遠野は昔、上の画像のような茅葺き屋根の古民家が多く、茅が薄くなると「結っこ」で茅を葺き、地域の人々で助け合って家を維持していました。昔の家は現代の家のように便利ではないですが、そんな環境で生まれ育ったからこそ、もう一度そこに身を置きたいと思ったとのことでした。
そこで朽ち果てかけた古民家を探し出し、地元の大工と共に4年かけて修繕を行ないそこを住居兼、作業場とギャラリーにしました。
「自分が修復することで自分の家になる。古い家が朽ちてゆく時間を楽しみたいし、住むことで人も家の一部になると思ってる。」と菊池さん。

 

△(左)冬の菊池さん宅 寒さの中にもあたたかみがあります

 (右)秋の終わり、部屋から見える風景

 

穴窯への想い

△現在の窯の様子

 

家の修繕を終えると穴窯の制作に取り掛かりました。穴窯は平安時代以前から使われ続けてきた窯で、効率はあまり良くないと言います。通常は5メートルほどですが、菊池さんの窯は完成すると20メートルにもなっていたそうです。燃料の赤松の管理や焼成(焼き締めること)も一苦労な穴窯ですが、窯焚きを行う際には毎年多くの方が手伝いに来ていました。菊池さんも、「窯は自分の分身」と語り、とても大切になされていたことがわかります。
しかし、東日本大震災で窯は倒壊。穴窯での焼成にも慣れ、作品に良い味が出てきた時のことでした。

解体、そして復活

大学生ボランティアの方々などと共に解体を行いました。その後は火の動きや次の地震を想定しながら、手伝って頂いた方々の想いをのせ、菊池さんが3年かけて修復を行ないました。
復興支援での展示会を行なった際には、ボランティアで来てくれた人が顔をだしてくれたことも。

△雑誌にも紹介されています

 

自分らしく生きる

△菊池さんの作品の一部

 

菊池さんのつくる作品はすべて地元の土を自ら粘土にして、力加減が難しい蹴ろくろなどを使い、制作しています。
「蹴ろくろは、器のフチがいびつになる。人生と同じで、山あり谷あり・・というのを楽しみたい。」「そういう形がこの土とは合うと思っている。」と菊池さん。
1000度を超える窯の中、土に含まれる鉱物や不純物が、赤松の灰と溶け合い、焼き上がる器で、菊池さんの納得のいく物は100個中1個ほどしか出会えないといいます。

最後に菊池さんは、「窯が自分の分身だとしたらそこから焼き上げた器は、まるで自分の子供のような感覚です。ひとつひとつ心を込めて作った器はとても愛おしいですね。」と語ってくれました。

△5-7日間、24時間交代で火を焚き続ける

 

△こだわりの器での食事

△夏場には外で作品を乾かす

 

さいごに

今回、菊池さんのお話を聞きましたが、器に対する想いが菊池さんを動かす原動力であることが、とても良く伝わってきました。
私は今までお気に入りの食器はあったけれど、その器に何を盛ろうか?どんな飲みものを注ごうか?と思い巡らせ購入したことはありませんでした。また、陶芸の作品を見ても何がすごいとか、どこがいいというのもピンとこず。
しかし、実際に器を見て、話を聞いて、穴窯を見て…。陶芸ってこんなにもかっこいいのかと、ものすごく感動しました。つくり手の想いと、手に取った人の気持ちが重なる瞬間、もっと器が生き生きするような気がします。私も、素敵な器と一緒にゆったりとした時間を過ごせるような時間をつくりたいな、と思います。

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〇今回の商品以外での薬師窯の詳しい情報、お問い合わせは、

Instagram:yakushigama_tono  まで。

文・写真提供:薬師窯/菊池寛人

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